Bloom talk
家具・インテリアの企画・販売を行う株式会社リビングハウスは、新入社員の8割が女性、管理職の5割が女性だと言う。代表取締役社長の北村甲介氏(株式会社リビングハウス/代表取締役社長)は、小倉大(CBC株式会社/製造部門および新規開発営業部門責任者・Career Bloom株式会社/取締役)と同級生の仲。女性が生き生きと働くリビングハウスでどのような取り組みが行われているのか、またリビングハウスが掲げる「空間時間価値」の高め方について、話を伺った。
新卒採用の約8割は女性。バランスは気にせず「優秀な順に取ってくれ」と言っている
−お二人は同級生だと伺いました。
小倉大(以下 小倉):中学・高校の同級生です。
北村甲介(以下 北村):今でも年に数回は会っているよね。この前食事に行った時に、小倉が Career Bloomにジョインする話を聞いたんじゃないかな。
小倉:そう。リビングハウスは女性が多いと聞いたから、今日は色々と教えてください。北村は中高生の時からおしゃれで有名で、今でも革ジャンとか服をくれるよね(笑)。
北村:やっぱりインテリアとファッションって近くて、親もファッションが好きだったんだよね。着なくなった服を渡せる相手って小倉くらいしかいないから。
小倉:また待っています(笑)。
−お二人の関係性が見えたところで、リビングハウスさんにはどのくらい女性社員がいらっしゃるのでしょうか。
北村:新卒で入社してくれる8割が女性ですね。インテリアに興味を持つのは女性が多いという側面もあるでしょうけれど、僕は男女や国籍を全く気にしていないので、人事にもバランスは考えず、優秀な順に取ってくれと言っているんです。その結果、女性が8割になっています。
小倉:CBCとは真逆だね。僕らの営業職はほとんどが男性で、女性の営業職で最前線に立っているメンバーはまだ数名という状況です。それを変えていこうとしている真っ只中なわけだけれど、リビングハウスでは女性が出産・育児のタイミングで休暇を取ることで現場の体制が変わることはどう捉えているの?
北村:どうだろう、結婚して産休・育休を取って復帰するのがもう当たり前になっているからなぁ。産休・育休からの復帰率は100%なんですよ。子どもが出来て、子どものいる生活を経験している人は、僕らのお客様のリアルな生活をイメージできるから、仕事に活かしやすいというのも特徴としてあるかもしれないね。今、産休や育休を取得中の人が社内に10名弱はいるんじゃないのかな。
小倉:でも10名いると、体制の変化は生じるよね?
北村:もちろん。実情としては復帰後に別のポジションに異動することになることもあるけれど、社員の生活スタイルとも相談しながら体制を変えていくのが普通になっているので、大変さは感じないです。
小倉:凄いね。子どもが生まれてもっと家にいる時間を増やしたいからテレワークを増やしたい、という要望とかはない?
北村:あまり聞いたことはないけれど…育休とはまた少し違って、「結婚で遠方に行くことになったけれど、リビングハウスで働き続けたい」と言ってくれた社員がいて、その子には100%テレワークでの仕事を用意したよ。成長過程にある会社だから仕事はいくらでも作れるというのもあると思う。
小倉:それで仕事を用意するのも素晴らしいし、それだけ働き続けたいと思ってもらえる会社だということだよね。ただ、そういう特例に対して、“ずるい、自分も100%テレワークにして欲しい”みたいな声も生じそうな気がするけれど、どう?
北村:中にはあるのかもしれないけれど、社風として良い人が多いから、そういう声が表立って大きくなることがないんだと思う。
−リビングハウスのビジョンにも「多様な価値観が共生できる世界をつくる」というキーワードがあり、こういった価値観が根付いているのでしょうね。女性管理職は何割ほどでしょうか?
北村:女性管理職は5割を超えています。社外取締役を除くと女性役員はまだいないのですが、役員業務が出来る女性がいればぜひ採用したいです。僕は本当に男女や国籍は関係ないと思っているので、世の中の流れがあるから女性を増やすというよりも、優秀な方が活躍するのが当たり前だと思っています。
小倉:北村は本当に本心でそう思っているよね。でもなかなかそうは思っていない企業も多いのが実態だと思います。
北村:それは何が懸念になっているんだろう?
小倉:例えば僕たちの業界で言うと、地方の工場へ行ったり、現場の仕事が夜遅くにあったりと、身体的にも時間的にもハードな環境が実際にはあるし、そこに適応できることを求められている。そうなると、女性がライフステージによって時間帯に制限が出るんじゃないか、身体的にもハードな仕事をできるのか、といった懸念が多いんじゃないかな。
北村:でも役員となると50代とかが多いから、子育てはひと段落している人が多いと思うけれど、それでもその懸念があるの?
小倉:役員の年代になる前に、妊娠・出産の時にもう諦めてしまうことが多いんだと思う。女性が産休・育休を取る時にも、現場の仕事量は減らないから、そのマイナスをどう補填するか?誰かが無理しなければいけない、という考えになってしまう。でも本来は子どもが生まれるのは素晴らしいことだし、気持ちよくカバーできる仕組みを作っていかないといけないなと思っています。もちろん男性の育休も増えていくわけだし。CBCとしては人口減少が進む中で、“女性には難しい”という固定概念を取り払い、いかに優秀な方々と働く体制を作っていくかを今模索しているところです。
日本でのホームパーティ文化を増やしたい
−北村さんにはぜひ、インテリアや家という空間での過ごし方についてもお話を伺えればと思います。リビングハウスでは『日本を「空間時間価値」先進国へ』というミッションを掲げられていますが、「空間時間価値」とはどんなものだと定義されていますか?
北村:空間で過ごす時間の価値を重んじるかどうか、を空間時間価値と呼んでいます。日本はインテリアのマーケットが先進国の中でも小さく、つまりはインテリアへの関心が低いのだと思います。その理由を僕は主に2つあると考えていて、まずは家の外の産業が栄えているということ。飲食業は世界随一ですし、何か家族でお祝い事があると、外食しようとしますよね。家の中で食べるよりも外で飲食店に食べにいくのが贅沢という考え方があります。2つ目は、家に人を招かないということ。欧米、特にヨーロッパでは富裕層でなくとも、家で小さなパーティを日常的に行います。家に人が来る機会が多ければ、やはり人間心理として家の中を綺麗にしよう、整えようと思う。だから興味関心が行くのです。でも日本では家に人を呼ばないので、家の中は安価な家具で良くて、出かける時のブランドバッグや服にお金をかけるわけです。
小倉:なるほど、確かにそうだね。
北村:この2つの要因を紐解くと、家という空間で過ごす時間に価値を見いだしてないということが大きいと思うので、そこを変えたいというのが僕の思いです。
−例えばどのような国がインテリアに関心が高いのでしょうか。
北村:ドイツやイタリアはマーケットが大きいです。ドイツは人口が日本の3分の2程度なのですが、家具・インテリア雑貨のイケアが日本は10店舗なのに対してドイツは55店舗あります。マーケット規模が大きく違うのが分かると思います。またドイツはインテリアだけでなく、キッチンにもお金をかけます。高級キッチンブランドがたくさんあるんです。それはやはり人を招くことが多いのだと思います。
−著書『「かなぁ?」から始まる未来 家具屋3代目社長のマインドセット』では、家具は一回買うと長年買い替えられないという課題も挙げられていました。こういったことも海外では異なるのでしょうか。
北村:代々受け継ぐ家具ももちろんありますが、日本で車を買い替える人と同じくらい、家具はライフステージに合わせて買い替えるものだとされています。ライフスタイルが変わったり引っ越したりしたらソファーを買い替えて、友達とパーティをするんですよ。逆に日本ほど車を買い替える国は珍しいです。
小倉:そうなの?近年では減っているとは思うけれど、やっぱり良い車に乗るのがステータスだったり、数年で車を乗り換えたりする人は多いよね。それがヨーロッパでは家具なんだね。僕も結婚した時に買った家具をずっと使っているなぁ。
−お話を聞いていると、国に根付いた文化も大きく影響しているように思います。なかなかにハードルが高い課題をどのように覆していこうと思われていますか?
北村:産業が栄えていないというのは供給側の問題もあると思っていて、日本のファッションのマーケットがここまで大きくなったのは、ブランドの努力が大きかったと思います。そういった点ではインテリア業界全体、特にリビングハウスが供給を頑張らなければいけないと思っています。またやはり僕はホームパーティに着目していて、家に料理人を派遣するビジネスをやりたいと思っているんです。料理人を派遣するなんて富裕層しかできないと思っている人が多いと思いますが、1人5000円程度で出来るサービスもあります。認知されれば、ニーズはあるはず。まずはリビングハウスで家具を買ってくださったお客様に利用していただければ、せっかく買った家具を見せるチャンスになるし、遊びに来たお友達はリビングハウスの素敵な家具を見てもらえる。ここにビジネス的にも活路があると考えています。
小倉:確かに、僕の家でも子どものお友達やママ友が集まってちょっとしたホームパーティをしているな。そういう時に料理人の方が来てくれたら便利だよね。
北村:特にお子さんのいらっしゃる家庭は良いと思うよ。家であれば子どもが騒いでいても気にならないし、レストランに行かなくても美味しい料理が食べられて、片付けもしてくれる。きっともっと知ってもらえたら需要があると思います。
−子育て中の働く女性という点では、忙しい中で家が散らかりっぱなしになってしまい、なかなか「空間で過ごす時間の価値」を上げられない悩みを持つ方も多いと思います。
北村:これも日本は文化による影響が大きいと思っていて、ベビーシッターやハウスキーパーを活用しにくいですよね。金銭的には使えても、育児や家事で楽をしてはいけないのではないか?という固定概念があると思います。
小倉:CBCでは最近、会社の福利厚生でベビーシッターのサービスを利用できるようになりました。回数は限られているけれど、会社のサポートが入ることで利用しやすくなると良いなと思います。
絵を飾りたいけれど飾れない日本人
−コロナ禍によって自宅で過ごす時間が増えたことで、日本人にも価値観の変化が起きていると思われますか?
北村:それは間違いないですね。その過ごし方が継続できている人と、元に戻った人はいるでしょうけれど、自分や仲間のライフスタイルを見ていても、例えば食事会に出かけても、二次会に行く数は相当減っていると思います。早く帰った方が楽だと気づいたんでしょうね。ということは家で過ごす時間が増えていますから、空間をどう快適にしようかと考えるようになっていくと思います。
−家での時間を快適に過ごすためには、家具はもちろん、お花やアロマなども心地よいものを揃えたいと思いつつ、なかなか手が回っていない人が多いと思います。
北村:リビングハウスでは絵や時計など壁に取り付けるインテリアに特化したオンラインショップを作ったのですが、僕らが行った調査では日本人の7割は絵を自宅に飾ったことが一度もなく、一方で飾ってみたいと思っている人も7割いるんです。でもヨーロッパでは壁が真っ白で何も飾っていないという家はないと思います。絵だけでなく、ポスターや家族の写真だとか、何かが飾ってある。そういった観点でもインテリアはヨーロッパと日本で大きく違います。
小倉:確かに家の壁は真っ白だなぁ。絵を飾るのはおしゃれだなと思うけれど、自分にはセンスがないと思ってしまうんです。「この絵、部屋にあってないな」と思われるんじゃないかと周囲の目を気にしてしまう部分もあります。
北村:ヨーロッパの人たちにセンスがあるように見えるのは、元々絵を飾ったりインテリアにこだわったりする家で育ってきたから。ただ僕がよく社員にも言うのは、セオリーはあるものの、最終的にお客様が良いと思うもの、気持ちが豊かになると感じるものを選んで頂ければ良いんですよ。ファッションと一緒で、周りの目を気にしすぎず、自分が心地よいものを選んでみてください。
−最後に、女性推進という観点で今後北村さんが取り組みたいことはありますか?
北村:インテリアコーディネーターという資格があって、資格を取得している方の9割は女性なのですが、この資格を活かして個人で生計を立てられる人はほとんどいないのが現状です。せっかく知識を持っているのに勿体無いと思っていて、インテリアをコーディネートして欲しい人と、インテリアコーディネーターを繋ぐプラットフォームが作れないかなと考えています。リビングハウスの社員でも、例えばパートナーの都合で地方に移住になり、そこに店舗がなければリモートでの業務しか出来ないのが現状ですが、こういったプラットフォームがあれば新しい仕事の選択肢が増えるのではないかと。
またより多くの方に空間で過ごす時間の価値を大事にして欲しいという点では、病院や老人ホームなどの空間作りも手掛けたいと思っているのですが、経済的に苦しいご家庭にも、家具やインテリアを楽しんでもらえるようなサービスを考えたいと思っています。
小倉:北村くんの様々な思いや挑戦が聞けて刺激になりました。ありがとうございました。