One story

女性専用の健診施設である「クレアージュ東京 レディースドッククリニック」を2021年に開院した安西智美さん。アンファー株式会社から新たに立ち上がった株式会社ファムメディコに創業メンバーとしてジョインした安西さんですが、同期に誘われるまでは全く想定していなかったキャリアだと言います。新しい挑戦ばかりが待つ環境に飛び込んだ理由、そしてその先で待っていたものとは。
約10年のキャリアを経て、未経験の分野での社内起業に挑戦

−まずは安西さんのキャリアについて簡単に教えてください。
2010年にアンファー株式会社に入社し、コールセンターの運営や顧客の声を活かした商品開発に携わりました。その後、様々なブランド商材のリピート対策を担当し、ステップメールの作成や会報誌の制作、コミュニケーションプランの設計を行いました。入社から約10年経った2019年に、同期の女性から社内起業となる株式会社ファムメディコの立ち上げに誘われ、参加することになりました。
−ファムメディコはお2人で立ち上げられたのですか。
アンファーの女性社員4名で立ち上げました。アンファーでのキャリアの中でクリニック開院の経験はなかったので、知識がない中手探りで、クリニックで働いていただける先生や臨床検査技師、放射線技師、看護師などを探し、チームを作っていきました。
−カスタマーサクセスやCRMのご経験からいきなり社内起業、しかもノウハウのないクリニックの開院というのは多くのハードルがあったと思います。ファムメディコにジョインするという決断に迷いはありませんでしたか。
最初に話を聞いた時に興味は湧いたのですが、やはり決断までには迷いがありました。これまで同じ会社で約10年過ごしてきたので、環境もガラッと変わりますし、仕事内容も全く変わります。ただ、信頼している同僚に相談した時、「なんでそんなに迷っているの?自分を必要としてくれているんだったら、やってみるのも良いんじゃない」と言われ、確かにそうだなと感じました。ファムメディコに誘ってくれた同期の女性は、自分の考え方を変えてくれるくらい尊敬できる女性だったので、彼女が「一緒にやろうよ」と言ってくれるなら、頑張ってみようかなと思いました。
−ファムメディコに参加するまでに、転職を考えたことはありましたか。
アンファーはとても居心地が良く、土日にも遊びに行くくらい社員の仲が良いんです。やろうと決めたらスピーディに物事を進められますし、裁量を持って仕事ができるので面白さも感じていて、転職というのは考えたことがありませんでした。一方で、約10年キャリアを積み重ねてきたので、今後はどうしていこうか、と将来を考えたタイミングでもありました。なので、新しい挑戦が出来るということは魅力的に感じられました。
−レディースドッククリニックを開院するという点についてはどう思われましたか。
実は27歳の時に母からの誘いで初めてレディースドックを受けたのですが、その時に卵巣の嚢腫や疾患が見つかり、精密検査を受けることになったんです。自覚症状がなくてもこういうことはあるんだなと驚きましたし、母からの誘いがなければ検査を受けていなかったと思うので、同じような女性が多いのではないかと感じました。そういう経験があったので、女性専用の健診施設を作るということにとても興味を持ちました。
どんなに怖くても、「直接」「本音で」コミュニケーションを取る

−経験がない中でいきなりクリニックの開院をするというのは、様々な苦労があったと思います。特に大変だったことは何でしょうか。
クリニックに勤めてくださる先生やスタッフさんの採用も自分たちでやって、医療機器の導入やシステム構築、クリニックのインテリアや導線も全てゼロから考える必要がありました。特に苦労したのはチーム作りです。これまではアンファーの中で、気心知れたメンバーと仕事をしてきたので、異なる価値観を持つ方々とチームを作っていく大変さを初めて知りました。ちょうどコロナ禍だったこともあり、なかなか直接コミュニケーションを取れない時期もあったんです。どんどん本音を言いにくい環境になってしまって、温度感や考えを擦り合わせていくことの難しさを実感しました。
−どのように解決されていったのですか。
こまめに連絡したり、ミーティングの回数を増やしたり、チャットで終わらせずに直接会いにいったり、とにかくコミュニケーションの量を増やすように心がけました。複数人で本音を言いにくい場合は、1対1で時間を取って、私から「ここが疑問なんだけれど、本当はどう思ってる?」と本音で話してみると、実は相手も同じようなことを考えていたことが分かったこともありました。相手も同じように課題を感じていることが分かれば、一緒にどう変えていくかを考えることができます。本音で話し合う機会を避けなかったことで、チームが変わっていったと思います。
−大事だと思いつつも、本音でぶつかり合うことを避けてしまう人も多いと思います。安西さんはこれまでマネジメントの経験があったのでしょうか。
そこまで大きいチームでのマネジメント経験はなかったですし、これまでのキャリアの中で、仕事場で相手と意見を激しくぶつけ合うような経験はなかったので、正直職場に行くのが怖い時期もありました。でもやっぱり心を開いて話し合ってみると少しずつ相手も理解してくれますし、関係性が変わっていくことが分かるので、直接会って話すということは続けていました。
インテリアは海外から輸入!徹底してこだわった「女性の気分が上がる」クリニックづくり

−「クレアージュ東京 レディースドッククリニック」ではどのような検査を受けることができますか。
人間ドックの項目に加え、婦人科や乳がん検診など女性に必要な検査が網羅されたプランを提供しています。その他にも、子宮・卵巣、大腸、乳房に特化した検査や、更年期症状や体の変化が気になる方向けの「更年期ドック」、将来的に妊娠・出産を検討していて、妊娠の仕組みの妨げになるような婦人科疾患を調べたい方向けの「プレコンドック」などライフステージにあわせたプランもご用意しております。女性のキャリア進出が進んでいる中で、結婚はしていないけれど、将来の妊娠・出産を考えて自分の体を知っておきたいという女性も増えています。
−近年では卵子凍結やオンラインピル処方なども話題になっていますが、女性の意識の変化は感じますか。
もの凄く感じています。フェムテックという言葉もよく聞くようになりましたし、「生理や更年期に対する話題を隠さず、人前で話してもいいんだ」と感じる女性も増えたと思います。また企業も女性の健康に対する向き合い方が変わってきていると感じます。

−開院は2021年ということで、時代に先駆けた取り組みだったと思います。開院当初はすぐに予約が入ったのでしょうか。
いえ、最初は全く予約が入らず、今でも最初に電話が鳴った時にみんなで喜んだことをよく覚えています。コロナ禍ということもありましたし、当初は企業が年に1回実施する健康診断の一施設として導入してもらうことを想定していたので、個人向けの集客に力を入れておらず、なかなかクリニックの存在を知ってもらうことが出来ませんでした。
−大企業では、健康診断を受けられるクリニックの一覧が配布され、その中から選ぶ形式になっていますが、そのリストに掲載されていたということですよね。多くの人は自宅や会社付近のクリニックを何となく選ぶため、女性専用かどうかや、検診内容まで細かく確認する人は少ないかもしれません。
その通りです。ただリストに載るだけではなく、そこからどう選んでもらうか?と考えた時に、企業営業のみではなく、認知向上のためのプロモーションにも力を入れることにしました。実際にクリニックに来てもらうと居心地の良さが伝わり、徐々に多くの女性に来ていただけるようになりました。

−とても素敵な空間ですよね。インテリアなどは、どのような点にこだわられましたか。
病院というと、真っ白で無機質で、アルコールの匂いがするというイメージを持つ人も多いと思います。実際にアンケートを取ってみても、病院や健康診断は苦手で、婦人科も何度行っても慣れないという方が多いんです。私自身もそうだったので、温かみがあって、女性が「ここに来たら気分が上がる」と思ってもらえるような空間を目指しました。椅子やインテリアは海外から輸入し、かなりこだわりを持っています。検査を受ける部屋も、大部屋ではなく、1部屋に1人、流れ作業という印象を受けないようなオペレーションを心がけました。「ここまでやる必要があるのか」と言われたこともありましたが、来てくださる方は「こんな健診施設は来たことがない」「体験したことがない」と言ってくださるので、こだわりきって良かったなと思います。「凄く良かったので、友達や家族に勧めます」と言ってくださる方もいて、輪がどんどん広がっていく感覚が嬉しかったです。

苦手意識のあった営業活動で自社の存在意義を感じられるように
−安西さんは今どのような業務に携わっていますか。
開院まではシステム構築や導線の設計、インテリアの選定、医療機器の購入などを行っていましたが、開院後は法人営業とプロモーションを担当しています。営業の経験は全くなかったので、テレアポも提案に行くのも初めての経験でした。
−いきなり営業にもチャレンジされたのですね。ノウハウもない中で戸惑いはありませんでしたか。
もちろんありましたが、開院した後にどう皆さまに知ってもらい使ってもらえるか、集客に携わりたいという思いがあったので、営業に苦手意識があったもののチャレンジしてみることにしました。実際に営業に行ってみると、無名の私たちに対して、「女性の健康」という文脈では大手企業を含めて多くの方が耳を傾けてくれ、企業がいかに女性の健康に注力しようとしているかを知ることができたので、自分たちの存在意義を確認することができました。
−とはいえ、苦手な業務に挑戦するのは勇気がいることだったと思います。なぜ飛び込んでいけたのでしょうか。
この事業が好きで、もっと知ってもらいたい、伸ばしたいという思いが強かったからかなと思います。当初はクリニックの認知もない中で集客に苦戦し、目標の売上にも届かない時期が続いたんです。凄く良い事業なのにあまり会社から「認められている」という気持ちになれず、見返したいという気持ちも大きかったと思います。

−辛いと感じる時期もあったと思いますが、どのように乗り越えられましたか。
一緒に事業を立ち上げたメンバーとは何でも本音で話せましたし、彼女たちと一緒だったから乗り越えられたと思います。仕事帰りに軽く飲みに行って悩みを共有できる瞬間があったことが、私にとっては大きかったです。
−今はどんな瞬間にやりがいを感じますか?
様々な企業の方にお会いしてお話をしていると、多くの人が女性の働きやすい環境を実現しようと動いています。女性の健康を守るためにはどういうことが必要なのか、皆さんと話し合っている瞬間は楽しいですし、私たちが行っている女性に必要な検査の重要性を広める事業は、多くの人に必要とされているのだなと感じることができます。
−乳がん検診など婦人科検診を受けた方が良いと思いつつも、忙しい日常の中で優先度が下がってしまう人も多いと思います。そういった方に向けて、メッセージを頂けますか。
自覚症状が出てからでは遅いというのをお伝えしたいです。自覚症状が出るということは、ある程度進行しているということでもあります。その前にぜひ検診を受けていただきたいです。年に1回、約2時間程度で終わりますから、幸せに健康でなるべく長く生きるために、自分のための時間を作ってみてはいかがでしょうか。私たちも、皆さんに気軽に来ていただける取り組みを増やしていきたいと思います。
−今後のご自身のキャリアをどのように思い描いていますか。
ファムメディコでの仕事を通して女性の健康やヘルスケア、フェムテックに関心を持つようになったので、そういったことに携わり続けたいという思いがあります。最近は、健康に関する情報を発信するだけではなく、女性たちに「受けよう」と思ってもらい、行動に移してもらうために自分に何ができるのかをよく考えます。忙しくてなかなか行動に移せない女性にとっては、働いている企業側がサポートすることも大事かと思います。例えば、生理休暇があってもなかなか取得できない女性も多いと思うのですが、そういった現状を変えていき、女性たちが動きやすい環境づくりを行っていきたいです。
