One story

大学卒業後、新卒で株式会社デンソーへ入社。営業・人事を経験したのち独立し、2021年に株式会社ICOREを創業。女性のエンパワーメントを軸に、スクール事業、商品開発、大学や企業でのキャリア講演を行う。累計3,000名以上の女性のキャリア支援をしながら、慶應義塾大学大学院にて女性のキャリアとウェルビーイングに関する研究やTEDxNagoyaU登壇など幅広く活動している。
安藤大嗣さん
2014年4月、キリンビバレッジ株式会社にて営業企画・営業に従事。2018年より独立、2021年にマーケティング事業を手掛ける株式会社SHiNを創業。2021年から株式会社ICOREを創業し、代表取締役に。慶應義塾大学大学院 非常勤研究員を務める。
女性向けオンラインキャリアスクール「ICORE」を運営する株式会社ICOREの安藤 美玖さん・大嗣さん。家族として、共同経営者として、支え合うその姿に惹かれるファンが多くいます。2人はどのようにキャリアを重ね、今の成功に至っているのでしょうか。
大手企業の会社員から独立、キャリアの分断で感じた不安
−株式会社ICOREを創業するまでのキャリアについて教えてください。
美玖:高校生の時に亡くなった父が働いていた株式会社デンソーに新卒で入社しました。営業職にやりがいを持って働いていましたが、元夫のドイツ赴任が決まり、一時退職して付いていくことに。自分のキャリアを諦めてしまって良いのか、本当にギリギリまで悩みましたね…。でも、新たな環境に飛び込むことに決めました。日本に帰国後はデンソーに復職したのち独立し、2021年に株式会社ICOREを創業。自分が起業することになるとは夢にも思いませんでした。
大嗣:僕は新卒でキリンビバレッジ株式会社に入社し、営業企画・営業として約4年働きました。元々起業に関心はあったのですが、まずはビジネスの基本である販売戦略を学べる企業でスキルを身に付けたかったんです。キリンは毎月のように新商品が発売されるので、スピード感を持ってマーケティングや販売戦略を学べると思いました。働いてみると会社の居心地も良くて、気づいたら4年経っていました。
−美玖さんは思わぬ形でのキャリアの転換に直面し、どう感じられましたか。
美玖:ドイツでの生活にワクワクした気持ちもあったのですが、3日目にして「自分には専業主婦は向いていない」と実感しました。キャリアを失った自分は「誰の役にも立っていないんじゃないか」と考え始めてしまったんです。もちろん駐在や専業主婦で価値を発揮される方も多くいらっしゃると思います。でも私は自分の強みが活かせていないように感じました。
「自分で稼いだお金じゃない」と思うと、カフェでコーヒーを飲んだり、洋服を買ったりすることにも申し訳なさがあって。ビザの都合で、アルバイトもできそうにない。八方塞がりの時に、少しでも何かしようとドイツ生活や旅行に関するブログを書き始めました。

−なぜブログを選んだのでしょうか。
美玖:当時はSNSもなくて、ドイツ生活について調べてもなかなか出てこなかったんです。生活や旅行情報をまとめたら、自分にとっても役立つし、同じように困っている人の役にも立てるんじゃないかと思い立ちました。自分にできることが見つかったのが嬉しくて、2週間でWordPressを勉強して、毎日ブログを書き始めました。中学生の頃からテニスの記録をブログサイトにまとめていた経験も役立っていたのかもしれません。開始1ヶ月で1万PVを達成して、Webデザインなどにも挑戦するようになりました。
−帰国後、デンソーに復職して心境に変化はありましたか。
美玖:人事部に配属となったのですが、部署が変わればもちろん業務内容も大きく変わりますし、営業職で積み上げたキャリアが活かせているのか不安でした。新卒の同期はどんどん出世していて、自分は追いつけない。今まで頑張ってきたことが評価されていないように感じて、正直怖かったです。会社以外にも居場所を増やそうと思い、副業で結婚式のペーパーアイテムの制作などを行っていました。その後、独立を選択しました。
−大嗣さんはなぜ起業に関心を持っていたのでしょうか。
大嗣:大学生の時に母が再婚して、継父が不動産ビジネスをやっている人でした。当時はそこまで大きな事業ではなかったですが、徐々に事業が拡大していく様子や、仕事も人生全体も幸せになっていく様子を見て、自然と惹かれていったのかなと思います。ただ自分がどんな事業をしたいかはなかなか見つからなくて、起業まで時間がかかりました。

−起業を決断した理由は?
大嗣:ある年末に、「来年はこの会社にいない気がする」という直感があって。年末年始の休み明けすぐに退職届を出したので、かなり周囲の人に驚かれましたね。前年に母がガンになったこともあり、自分の人生を改めて見返して、「本当にこの仕事をずっと続けていきたいのか?」「自分が実現したいライフスタイルに合う仕事なのか?」「将来、家族ができた時に転勤が多い仕事はどうなんだろう」など色々なことを考えました。当時は副業ができなかったので、現状を変えるには辞めるしかない、と思ったんです。いきなり独立してお客様の当てがあった訳ではないので、ひたすら飛び込み営業の日々が始まりました。1日30件以上の美容院を回って、マーケティングや販売戦略をお任せいただけないか、営業して回りました。お金がないので、家賃2万9000円の家に引っ越して。徐々にお客様が付いて、「このままやっていけそうだぞ」と思えるまで2年ほどかかったと思います。
出会い結婚、そして共同経営者へ
−お二人の出会いについて教えてください。
美玖:私が退職と離婚をすることになった時、コロナ禍の緊急事態宣言が発令されるタイミングに重なりました。色々なことが変わったので、「もう今の場所にはいられない」という感覚があり、東京に移り住むことに決めました。東京の友達が欲しいと友人に頼んで紹介されたのが、アンディくん(大嗣さん)です。最初はzoomで、仕事や住む場所について相談する機会がありました。でもなぜか話しているうちに「私はこの人と一緒になるのかな」と思ったんです。当時は離婚したばかりだったので戸惑ったのですが、アンディくんも同じ気持ちを抱いていたようです。
大嗣:実際に会ってみて想像以上に合う人だなと思い、自然と結婚へと向かっていきました。性格は全然違うのに不思議ですね。結婚した当初はそれぞれ独立してビジネスをしている状態でした。

美玖:私はヨガのインストラクターやセミナー講師をやっていたのですが、自分がライフステージの変化でキャリアについて悩むことが多くて、「もっと仲間と一緒に考えられる場所があったら良いのに」と思うようになりました。そこから女性のキャリアスクールについての構想が出来上がっていったのですが、事業戦略やマーケティングの経験はありません。アンディくんに相談したところ、彼も女性のキャリアについて思いがあったため、「一緒にやろう」ということになりました。
大嗣:母がシングルマザーで、働きながら自分を育ててくれたので、女性のキャリアというものに関心が高かったのだと思います。女性だけが考えるのではなく、男性も一緒に考えるべきという思いもありました。僕はマーケティングや長期的な戦略を考えるのが得意で、妻は現場でのコミュニケーションやコンテンツづくりが得意。お互いの強みが違ったので、得意分野を活かしながらチームとして事業を育てていけると感じました。
−仕事でもプライベートでも一緒だと、切り替えの難しさなどはないのでしょうか。
大嗣:受講生の皆さんにもよく驚かれるんですけれど、僕らはオンオフがなく、ずっと関係性が変わらないんです。お互いの専門や得意分野が違うので、うまく棲み分けができていますし、お互いを理解し合うことができていると思います。
美玖:もちろん意見が違うことはあるんですけれど、大きな喧嘩にはならないですね。例えば私が「やりたい」と思ったことに対して、アンディくんから「長期的に見て、今やる必要はないと思う」と言われたら、その意見を一回受け止めて考えてみます。「確かにそうだな」と思えば素直に従うし、「それでも今やりたい」と思ったらそう伝えます。一緒にやっていくうちにアンディくんが言っていたことが正しかったなと思うことも多いので、悔しいなと思いつつ(笑)、信頼して意見を聞くことができています。異なる視点から擦り合わせながら事業を作っていけるので、うまくバランスが取れて、全く見当違いなコンテンツになることがないのかなと思います。
強みが異なるチームだから、上手くいく
−夫婦関係においても仕事上においても、お互いの強みを理解し合い、歩み寄ることを理想としつつも難しさを感じる人も多いと思います。お二人が良好な関係性を築いている秘訣はなんだと思われますか。
大嗣:僕は「1人で前と後ろの両方を見ることはできない」という考えが強いですね。自分には得意なことがある反面、どうしても苦手なこともある。それを補完し合える相手がいて、一緒に対話をしながら進めていければ、前に進んでいけます。「自分が完璧だと思いすぎない」ということが大切だと思います。
美玖:私はどちらかと言うと何事も自分のペースで進めるのが好きなタイプで、フリーランスでやっていく仕事が合っているんじゃないかと思っていました。だから会社にするべきか悩んだんです。でも自分がやりたいことを考えた時、「1人ではそこまで行けない」と素直に思いました。遠くに行くには、チームでチャレンジする必要がある。そこに夫がいてくれることは心強かったです。
一度2人で「理想のチーム像」について話し合ったことがあるのですが、色々と書き出してみると私には苦手なことが意外とあるんだなと気づくことができました。それを得意な人にお願いしてみたら、自分は強みを発揮できる部分にフォーカスして働くことができる。そうしたら仕事がすごく楽だし楽しくなったんです。
大嗣:既成概念に捉われて勝手に役割を当てはめるのではなく、それぞれの強みや良さが活かされるフォーメーションを、感謝と尊敬の気持ちを持ってフラットに対話しながら創ることが大事だと思います。これは家事や子育ても同じなのかなと思いますね。

美玖:お互いに余裕がない時は小さな喧嘩が起きるんですけれど、喧嘩を次の日に持ち越さないと決めているので、納得できるまで話し合います。そうすると大抵のことは「リスペクトと感謝が足りていなかったね」、という結論に至ることが多いです。パートナーだからという甘えがあって、ありがとうと言えていないんですよね。そういうときは「お互いリスペクトしていることを10個言ってみよう」とか、改めて言葉にして伝えあうようにしています。
−共に事業をされていると、繁忙期が被ることも多いと思います。子育てもあって、パンクしてしまうことはないですか?
美玖:出産するまでは人に頼るのが苦手で、「自分がやった方が早い」と思っていました。でも子どもが産まれると、周囲に頼らないと上手くいかないことが多いです。よく覚えているのは、出産したばかりの時に、2人でスクールの説明会に出なければいけないタイミングで子どもが熱を出してしまって、お義母さんに群馬から来てもらったこと。
わざわざ群馬から来て赤ちゃんを見てもらうなんて、ダメな母親だと思われているだろうな…と自己嫌悪に陥りそうだったのですが、お義母さんが「出産したばかりなのに働いてくれてありがとう」と言ってくれたんです。涙が出るほど嬉しくて、肩の力を抜いて誰かに頼っても良いんだと思えました。お義母さんを含めて、家族というチームなんだなと思えるようになりましたね。
大嗣:母も息子に会うのをいつも楽しみにしていますし、息子もおばあちゃんが大好きです。先日も兄弟の家族も合わせて12人でハワイ旅行に行ったんですよ。すごく幸せな時間でした。
自分が誰かの力になって、その人から感謝されて嫌な気持ちになる人はいないと思います。大事なのは、感謝を伝え合うこと。そして自分のこだわりや「こうじゃなきゃいけない」という思考を手放すことだと思います。
美玖:仕事でも、チームに頼って相談してみると、お互いに助け合えるチームが育っていく。子育てや会社経営を通じて成長させてもらったことが多かったです。
女性と男性、対立構造では社会は変わらない

−大嗣さんは女性向けのサービスに携わるようになって感じたことはありますか。
大嗣:男性は数字で見せたり、短時間で抽象的な概念を語ったりした方が惹きつけられやすい。一方で女性は、まず自分がイメージしやすい具体例を挙げて、共感を重ねていく方が理解していただけます。元々僕は「結論から言って」「それってやる意味あるの?」とか言ってしまうタイプだったんです。でもそれでは女性の共感は得られないことに気づきました。
美玖:私も当初はよく「やりたいことを言った時に、まず“いいね”って言って」と伝えていました。ICOREを通してアンディくんもすごく柔らかくなったと思います。
−自分のやり方を変えることに抵抗はなかったですか?
大嗣:全くなかったです。女性のキャリア支援と言うと女性だけの問題に捉えられがちですが、男性との対立構造になってしまうと社会は変わらないと思います。男性も共に変わる姿勢を持ちながら、一緒に取り組んでいくことが求められていると思っていたので、お互いに理解し合いながら、変わっていくことが当然だと思いました。
美玖:家事や子育てもお互いの状況を見ながら臨機応変にやることが多いです。やはり女性は「自分が育児をしなきゃ」「家事をしなきゃ」という意識が根付いている人が多く、出張だとしても家を空けることに罪悪感を覚える人も多いと思うんです。
私自身も「出産したらしばらくひとり旅はできない」という思い込みがあったのですが、先日出張の機会にひとり旅をして出雲に行ってみたら、すごくリフレッシュできました。夫も息子も楽しそうに過ごしていて、“なんだ、できるじゃん”って。事前にちょっとした作り置きをしたり、帰ってきたら感謝を伝えたり、思いやりを忘れなければできないことはないなと思えました。

大嗣:我慢するのが一番良くないと思います。僕も子どもと過ごす時間は楽しいし、感謝も伝えてくれるのですから、全く問題ないです。自分も相手も我慢せずに、楽しくできる方法を見つけていくことが大事だと思います。
僕たちは会社でもほとんどルールがないんですよ。業務報告の必要もないし、定例会議もないし、平日に家族で旅行に行くのもOKです。ルールで縛るのではなく、いかにみんながモチベーション高く、楽しく働ける環境を作れるかを意識しています。
−自由度があるとサボる理由になってしまうこともあると思うのですが、上手くチームを回していくためにはどうしたら良いのでしょうか。
美玖:仕事だけじゃなく、人生として何をしていきたいのか、どんなチャレンジをしたいのかを聞きながら、そこに活きるような仕事をお願いするようにします。これをやることでその人がやりたいことにどう繋がるのか、ということに寄り添って、しっかり言語化します。自分のやりたいことに繋がっていると実感できると、楽しくモチベーション高く働けるんじゃないかなと思います。また、組織には経営者のあり方が反映されるので、私自身が無理せず楽しく働くことが大切。ポジティブなエネルギーを伝えられるよう心がけています。
人生を応援し合えるパートナーでいるために
−お二人がパートナーシップにおいて大事にされていることは何でしょうか。
美玖:良い意味で他人だと思っているので、それぞれの人生を応援し合えるパートナーでいたいと思っています。私は私、アンディくんはアンディくん。彼が人生でどんなことをしていきたいのか、そのために私ができることは何なのかをよく話すようにしています。会社の目標とかではなく、長期的に人生でやりたいことや、どんなことをしている時が幸せなのか。ウェルビーイングについて話し合うことが多いですね。
大嗣:僕は自分から喋るタイプではないので、いつも上手く聞き出してくれていると思います。結婚して我慢が多くなった、不満が多くなったとしたら結婚する意味がないなと思うんです。2人で一緒にいることで、より自由になっていく、より楽しくなっていくことが大事だと思います。そのためにお互いに話し合いながら、応援しあって、1人でいる時より楽しい瞬間を作っていきたいです。
美玖:アンディくんはランチデートだったり、誕生日だったり、夫婦2人の時間を大切にしてくれます。私はすぐに仕事に熱中してしまうので、夫婦としての時間を取ろうとしてくれる姿がありがたいです。
今までの私は短距離走型で、目の前に見つけた目標に猛スピードで向かっていっていました。でも年齢を重ね、出産も経て、短距離走だけではサステナブルに生き続けられないなと思うようになりました。そういう中で、家族の時間も大事にする中で仕事を頑張る、長期的視点を持ったマラソンランナーのようなアンディくんが隣にいてくれると、多くの気づきがあります。家族の時間は思いきり家族と楽しむ、とかメリハリを持った方が、結果的にパフォーマンスが上がるし、体調も崩しにくくなりました。もちろん創業当初はストイックに働きましたし、それがあったからこそ今があるとも思います。でも今はサステナブルな働き方に向き合うフェーズにいるように思います。
大嗣:最近では生活拠点を名古屋に移しました。オンラインでできる仕事も多いし、今後も海外を含めて住む場所は自由に変えていきたいなと思っています。
美玖:「こうしなきゃ」という縛りをなるべく無くして、いつでも身軽に動ける自分たちでありたいですね。今では会社員でもさまざまな働き方を選べる時代だと思います。「出社しないといけない」「子育ては母親がしないといけない」…思い込んでいるものが本当にそうなのか、考えてみてほしいです。自分自身が本当にどう思っているか、どういう生活や働き方が出来たら豊かになれるのか。夫婦の在り方も2人らしい形を見つけていけると良いのかなと思っています。
大嗣:自分が当たり前だと思っていても、相手はそう思っていないことも多いよね。でもその違いを否定するんじゃなくて、面白がりながら、2人が楽しめる方法を見つけていきたいです。
−最後にお二人が描いている未来像をお聞かせいただけますか。
大嗣:今よりフラットに、それぞれの個性が尊重されている協働的な世の中になっていくと良いなと思っています。ICOREで今フォーカスしているのは女性の副業や起業ですが、企業で働く女性はもちろん、男性も含めてみんなが自分の良さを理解し、それが認められる社会にしていきたいですね。
美玖:ICOREのミッションである「あいから、はじめよう。」という言葉が変わらず自分の中の軸としてあります。みんなが個性を認め合って、愛が循環する世界を作っていきたい。キャリアスクールICOREだけでなく、2022年から発売しているMe手帳や、働く女性のウェルビーイングに関する研究も、そこに繋がっていくと信じています。自分の人生を生きることを楽しむ人を増やすためなら、どんなことにも挑戦していきたいです。



