One story

憧れだったコスメブランドのブランドマネージャーとして輝きを放つ影山千尋さん。しかし、そのキャリアは一直線ではありませんでした。東日本大震災をきっかけに「自分は何のために働くのか」を問い直し、未経験のコスメ業界へ挑戦。人材会社での学び直し、MBA取得、マネジメントへの挑戦と、変化を重ね続けています。人生の転機と向き合い続けた先に見えてきた、“自分らしく働き続けるための選択”とは。
東日本大震災を通して向き合った人生の選択

−大学卒業後のキャリアと最初の転職について教えてください。
大学は法学部で、法律系の職種に就くことを夢見ていました。でも大学在学中に法律事務所でアルバイトをしてみて、「自分がやりたいこととは違うかもしれない」と感じたんです。営業職など、人と接する職種の方が向いているのではないかという思いが芽生え、化粧品業界や不動産業界に関心を持ちました。様々な企業の新卒採用面接を受けた結果、組織文化が自分に合っていると感じた不動産管理会社への入社を決めました。業務に必要な資格も取得し、任される領域も増えることでやりがいを感じていましたが、身内に不幸があったことをきっかけに地元の福島に戻ることになりました。そのため、地元で働くことができる損保会社へ転職しました。
−東日本大震災が起こったのは、福島に戻った数ヶ月後だったそうですね。
津波や地震の被害が大きいこともショックでしたが、原子力発電所が比較的近い地域であったため、原発について考える機会が増えました。震災直後は情報も錯綜しており、漠然とした不安を抱えていましたね。雨が降ったら仕事中でも帰宅を命じられ、スクリーニング検査を受けました。「もし放射能を浴びて病気になったらこの先どうなるんだろう?」「将来、子どもに影響が出るのだろうか?」と様々な思いが巡っていました。今、自分たちが何をするべきなのか。常に考えて行動しなければいけない状況に直面し、自分の人生についても深く向き合うようになりました。
−キャリアに対する価値観も変化しましたか。
震災が起こるまでは、正直自分のキャリアについて深く考える機会がほとんどありませんでした。仕事に対するモチベーションもそこまで高くなかったと思います。でも震災を経験して、当たり前の日常が突然なくなることを知り、自分の人生に何を求めるのか、仕事を通して何を実現したいのかを考えるようになりました。 そこで思い至ったのが、自分の好きな商材を売る仕事をしたいということ。自分は何が好きなんだろう?と考えた時、学生時代から好きだったコスメのことが頭に浮かびました。「やっぱりコスメが好き、コスメに関わる仕事をしてみたい」、その思いで転職活動を行い、業界未経験でも採用してもらえるコスメのベンチャー企業に転職をしました。
−地元を離れること、ベンチャー企業に転職することに不安はありましたか。
福島を離れることへの不安はなかったです。東京からそこまで遠く離れているわけではないですし、一度地元から離れて俯瞰することで気づける良さもあるかなと思いました。ただ、ベンチャー企業への転職について迷いがなかったとは言えません。それまで大企業に勤めていたので、働く環境が大きく変わることへの不安がありました。ただ最終的には、まずはチャレンジしてみようという思いが上回りました。
コスメを見て目を輝かせる女性たちとの出会い

−憧れの業界に転職してみていかがでしたか。
コスメは多くの人にとって、日常になくてはならないものだと思います。自分のために時間を使って、自分を肯定できるきっかけになることもあります。世の中に良い影響を与えることができる業界だなと改めて実感しました。 営業職は想像以上に泥臭く、問屋への商談が多かったのですが、顧客理解のために販売店の店頭に立たせてもらうこともあり、エンドユーザーの声を直接聞く経験ができたのが印象に残っています。商品が売れるためには、接客や環境、様々な要因が影響するのだと実感でき、営業職のキャリアにおいても大切な経験だったと思います。ベンチャー企業だったので業務範囲も広く、限定商品の企画や販売店の棚作りなどの販促企画に携わる機会もありました。
−特に印象に残っているエピソードはありますか。
CSRの一環で、アフリカ・ザンビア共和国のある村に訪れる機会がありました。その時、自分のメイクポーチを見せると、小さな女の子から、子どもを抱えた母親まで、たくさんの人々が目を輝かせる瞬間を目の当たりにしたんです。初めて見た、どう使うかも分からないコスメに興味津々な姿を見て、コスメには大きな可能性があると思いましたし、彼女たちがコスメを使える環境を作りたいと思いました。でもそれはとても壮大な夢なので、まずは自分の身近な人たちに喜んでもらえる仕事をしよう。そう決意しました。
−影山さんが次のキャリアに選んだのは、意外にも人材サービス業界大手企業でした。転職を決めた理由は何でしたか。
ベンチャーでのやりがいは大きかったのですが、30歳を目前に、体力的なしんどさを感じるようになりました。休日出勤や出張も多かったので、このままがむしゃらに働き続けて大丈夫なのだろうか、と考えるようになりました。この先も健康的にサステナブルに働き続けるために、新たな選択をしようと思いました。 また当時働いていた会社では、競争の激しいコスメ市場の中、少数精鋭の社員で大きな売り上げを創出しており、マーケティングの重要性を実感していました。私自身も体系的にマーケティングを学びたいと思っている中で、ITアウトソーシング部門で独自のセールスメソッドを身につけることができることを知り、入社を決めました。
−転職して、働き方は変わりましたか。
大きく変わりました。プライベートの時間を取れるようになって、自分の体調を整えながら仕事に臨むことができるようになりました。また私にとって大きな刺激になったのが社内研修です。普段の業務では接することのないグループ企業の方とご一緒するのも楽しかったですし、様々な知見を学べて知的好奇心が満たされる瞬間が多かったです。
−特に印象に残っている研修はありますか。
長野県木曽町で行われたフィールドラーニング研修です。現地の方に地域の現状や課題をインタビューしながら、課題解決につながる新規事業を構想するプログラムでした。地方創生に関心があったので参加したのですが、印象に残ったのは数日間の研修期間中に何度も自分の考えを言語化し、相互理解を深める時間があったことです。自分は何を考え、何をしたいと思っているのか。内省し、感情を言語化する機会が多くあり、自己理解が深まりました。人間力を高める時間になったと思います。
学び続けることが自信に繋がる。「40歳までに」がポジティブな動機に

−そして現在は、化粧品OEM会社の経営戦略や自社コスメブランド「ルミアグラス(LUMIURGLAS)」のブランドマネージャーを務めています。
セールスマーケティングの知見を得て、自分のスキル・経験にも自信を持てるようになった時、再びコスメ業界でチャレンジしたいと思いました。現職へは知人からのリファラルでお声がけいただいたのですが、コスメの中でもリキッドアイライナーのパイオニア企業であり、歴史・実績・品質に自信をもって商品づくりができることに魅力を感じました。
−ブランドづくりに携わってみていかがですか。
ベンチャー企業にいた約10年前とは時代が変わり、市場のトレンドは速いスピードで移り変わっています。販促マーケティングに携わる中、成功パターンを見つけても、半年後には全く効かなくなる…ということもしばしばあります。市場の難しさを実感していますが、「まだまだやれることがたくさんある」というやる気にも満ちています。
−そしてマネジメントという新しい挑戦もされていますね。
前職までは優秀な先輩方に囲まれて、刺激を受けながら成長するポジションが心地よかったので、まさか自分がマネジメントをやることになるとは夢にも思いませんでした。育成経験もない中、最初はコミュニケーションの仕方に悩みました。自分が求めるものとは異なるアウトプットが出てくることもあって、なぜなのだろうと疑問に思っていました。当時、外部コンサルタントの方によく壁打ちをさせていただいていたのですが、その中で気づいたことが、マネージャーとメンバーではレイヤーが違い、視座が異なるということでした。それからは各メンバーの立場で何を見ているのか、何を優先したいのかを想像した上で、コミュニケーションを取るように意識しました。また昨年からMBA取得に向けて経営大学院に通っています。組織論やリーダーシップについて体系的に学ぶことで、思考を整理できるようになりました。
−MBA取得を目指そうと思われたのはなぜだったのでしょうか。
転職して以降、自分の経験やスキルを評価してもらえるのは嬉しかったのですが、年次も上がっていく中で学びの機会が減っているように感じていました。自分が社内で提案をすると全て通ってしまう。本当に自分の意見は正しいのか、学術的な根拠を得たらもっと自信を持てるような気がしました。そこで外部のマーケティング研修やカンファレンスに行くようになったのですが、情報交換の機会にはなるものの、学びという観点では限定的に感じました。より本格的に学ぶためにはMBAが良いのではないかと考えました。
−日々の業務も忙しい中で、「いつか行きたい」と思いながら後回しにしてしまう人も多いと思います。影山さんはなぜ行く決断ができたのでしょうか。
30代後半で自分のキャリアを振り返った時、40歳までにMBA取得ができたらある程度ビジネスにおいてやりたいことがコンプリートできるのではないか、と感じたんです。「40歳までに」というのがポジティブな動機となって、挑戦に踏み切ることができました。行ってみると様々なバックグラウンドを持つ人たちが「同級生」としてフラットに学び、共感し、悩みを共有することができる環境が非常に心地よく、他者への想像力や許容範囲も広がりましたし、心理的安全性が確保されている場所が増えた感覚があります。時間に余裕はないですが、心に余裕ができました。
「抜く時間」や場所・人を変えることが心の余裕を生む

−影山さんはどんな瞬間に自分らしさを感じますか。
キャリアを振り返ってみると、新しいことをやり続けているなと思います。新しいことにチャレンジしようと思った瞬間が、自分らしさが出ている瞬間だと思います。最近ではMBAもそうですし、プライベートではピラティスを始めました。いつも動き回っていて、様々な刺激を受けながら成長を続けたいです。
−常にチャレンジし続けている影山さん。サステナブルに働き続けるために、心がけていることはありますか。
「抜く時間」を作るようにしています。ずっと緊張感を持って働き続けることは不可能だと思うんです。時には体調が良くない日や、上手く仕事が進まない日もあります。そういった時は場所を変えると気分も切り替えやすくなることが多いです。出張先で少し散歩をしたり、週末にはふらっと実家に帰ったりすることもあります。地元の福島に帰るとやはり安心しますし、自然に癒されたり、家族や地元の友人と会ったりすることがリフレッシュになり、再び頑張る気力が生まれてきます。ポジティブ思考の友人も多いので、友人とおしゃべりする時間も大切です。それにメイクをするのも自分の気分を高めてくれる時間だと思います。
−今後のキャリアについて思い描いていることを教えてください。
将来的には地元に還元したいという思いがあります。自分が生まれ育ってきた場所ですし、東日本大震災を機に自分の人生を見つめ直した場所でもあります。ビジネスを通して恩返しができたら嬉しいです。またコスメの可能性を感じたザンビア共和国での経験はやはり忘れられないですし、誰もがコスメを楽しめる世界を作りたいという思いは持ち続けていたいと思います。



