Bloom talk
女性のキャリアを支援するCareer Bloom社が2025年12月に大塚ちづるさんを迎えて開催したスペシャルセミナー「My Value〜セルフジャッジの罠〜」。対面・オンラインで開催され、女性のキャリア支援に取り組む多くの人が参加した。セミナーの様子をお届けする。
「みんなは○○だから」をまず捨てよう

篠崎:今日は大塚ちづるさんをゲストにお迎えし、「My Value〜セルフジャッジの罠〜」をテーマにお届けしたいと思います。私はChi(チイ)さんとお呼びしていますが、Chiさんとの出会いはPresence Builder(プレゼンスビルダー)というセミナーでしたね。前職でマネージャーをしており、まさにセルフジャッジの真っ最中でした。Chiさんの明るくエネルギッシュにお話される様子に衝撃を受けたのを覚えています。その時はCareer Bloomを起業するとは夢にも思っていませんでした。Chiさんから見て、4年前の私はどう見えていましたか?
大塚:侑美さんはすごく悩んでいるように見えました。何に困っているのかにとても興味が湧き、私が運営している女性のための会員制ネットワーク「THE CHOICE」にお誘いしたんです。とても多様な女性たちがいるので、みんなの話を聞いた方が良いのではないかと思いました。侑美さんのお話を聞いていると、もっと自分を信頼すれば良いのになと感じました。能力が高いし、頭も切れるのに、なぜか社会の壁を感じてしまっている。一緒に解明していけると良いなと思いました。
侑美さんの転機になった日のことをよく覚えています。「THE CHOICE」のメンバーとディナーに行った時、来た時の顔と、帰る時の顔が全く違っていました。私が侑美さんに何かを話したというより、みなさんの話を聞いて、何か思うことがあったのだと思います。あの時から、侑美さんは変わりましたよね。
篠崎:その通りです。私はそれまで、会社の中で女性の先輩に多くは出会えていませんでした。「THE CHOICE」のみなさんとのディナーはとても緊張したのですが、様々なキャリアを持つ先輩たちが明るく勇気づけてくださって、すごくポジティブな気持ちになれたんです。だから今度は、Career Bloomの活動を通して多くの女性に勇気をお返ししていければと思っています。
篠崎:グローバルに活躍するChiさんから見て、VUCAの時代、複雑な世の中を生きる日本の女性はどう見えていますか?
大塚:日本の女性たちは能力を隠し持っているけれども、能力を発揮する場がなかなか定まらない印象があります。そこには「みんなは○○だから」という共通認識が存在するカルチャーが大きいように思います。私がキャリアの多くを過ごしたニューヨークではあまりにも多様な人種、カルチャー、バックグラウンドを持つ人が集まっているので、「みんなは○○だから」という概念がないんです。そういった環境で過ごしたので、私も自分のキャリアにおいて「みんなは○○だから」と考えたことがなかったと思います。
「ファクトチェック」の重要性とは?

篠崎:今日のテーマである「セルフジャッジ」について、Chiさんは向上心なのではないかと考えられているそうですね。
大塚:セルフジャッジについて考えていらっしゃるみなさんは、人生に前向きで、向上心が高いのだと思います。日本のみなさんはとても真面目なので、セルフジャッジする人口も多いように思います。ただ「私なんか」と思うことは社会の貢献にもなりませんし、自分にとっても良くありません。それが癖になると常に「私なんかこの服が似合うわけない」「私なんかプレゼンテーションできない」と連鎖していってしまいます。自己肯定感という言葉で言うのは好きではないのですけれど、自分を否定するような考えは、今日この場で置いて帰っていただきたいと思います。
篠崎:今日は「My Value〜セルフジャッジの罠〜」について、①キャリアチェンジ、②マネジメント、③グローバル、④ライフステージの変化、4つの視点から掘り下げていきたいと思います。これらを考えていく上で、「ファクトチェック」というキーワードを挙げていただきました。Chiさんから解説いただけますか?
大塚:みなさんにはぜひ、ファクトチェックを何度もしていただきたいと思っています。人はよく不安に駆られると色々なことを考えてしまい、眠れなくなってしまうことがありますよね。でも統計によると、悩み事の90%は起こらないと言います。起こらないことについて、ぐるぐると考えてしまうんです。だからこそ、ご自身で「それは本当なの?」と問いかけてみてください。「私はこのプロジェクトに向いていない」と思うのはなぜなのか、それは本当なのか?事実なのか妄想なのかを、確かめていただければと思います。
篠崎:思考回路も断捨離することが大切ですね。
キャリアチェンジの前に会社を知る

篠崎:ではまず、1つ目のキャリアチェンジについてお話を伺っていきたいと思います。今回、参加者のみなさんからもキャリアチェンジについて多くのコメントをいただきました。転職をすること、挑戦することが「かっこいい」と思われがちなトレンドの中、焦ってしまう人も多いようです。「今の会社ではやりたいことができない」「転職する勇気がない、タイミングがわからない」といったお声もありました。自分のキャリアの次のステップを見つけるには、どうしたら良いでしょうか。
大塚:まさしくファクトチェックが必要なシーンです。例えば「今の会社ではやりたいことができない」と思っている方は、自分の所属する部署以外の仕事を本当に把握しているでしょうか。私は社内でネットワークを持つことは素晴らしく有益なことだと思っていて、戦略的に実践することをおすすめしています。月に1回、他部署の人と会ってみるとか、その人に誰かを紹介していただくとか。自分で判断を下す前に、情報収集をしてみると多くの発見がありますし、会社の方向性や方針も見えてくると思います。
また信頼できる上司や同僚に、自分の仕事に対するフィードバックを求めるというのも大事だと思います。私自身、ある方に「人事に向いているから人事部に行った方が良い」と言われて人事の仕事が始まりました。でも異動が決まった当時は「今の部署をクビになったんだ」「私はやっぱりニューヨークでは通用しないんだ」と落ち込んでいたんです。そうしたら先輩たちが「うちの会社の人事部になって欲しいと言っているのになぜクビだと思うんだ」「自分のことは自分では見えていない。あなたのキャリアにとても良いことだし、向いていると言われたことに耳を貸しなさい。まず6ヶ月チャレンジしてみて。本当に向いていないと思ったら戻ってきて一緒にファクトチェックをしよう」と言われました。結果、その上司が正しかった。私も全くファクトチェックができていなかったんですね。
篠崎:Chiさんにもそんな時期があったと思うと安心します。最初から人事のプロフェッショナルだったのだと思ってしまいがちですが、全く違うキャリアから、周囲のフィードバックを受けてのキャリアチェンジだったのですね。

マネージャーは、オーケストラの指揮者。多様な音を奏でよう
篠崎:次に、マネジメントにテーマを移していきます。今回のセミナーにもマネージャー層に多くお越しいただいていますが、バックグラウンドの異なる人たちと同じ目標を目指す難しさを感じている人が多いようです。
大塚:多様な人たちをマネジメントしていくのは、すごく大変だと思います。ただ多様な人たちで良いハーモニーが奏でられると、最強のチームになります。オーケストラを思い浮かべていただけると良いと思います。ピアノの音色はそれだけでも素敵ですが、フルート、シンバル、バスと楽器が加わると音に多様性が生まれ、ダイナミックさが生まれます。指揮者はみんなが良い音色を奏でられるよう、まとめて指揮をしていかなければいけません。
どの会社にも飛び抜けて優秀な方はいますが、その人の能力を活かすには、きちんとしたサポートシステムや、その人を輝かせる人たちが必要です。マネジメントはまず、メンバー1人1人がどんなことができるのかを知らなければいけません。そのためにはオープンマインドでいるべきだなと思います。いかにメンバーから色々なことを教えてもらえるか。そこがマネジメントの腕の見せ所ですね。
篠崎:確かに指揮者に置き換えて考えてみると、多様なメンバーの個性を活かす大切さが見えてきます。
大塚:私もそれができず、大失敗したことがあります。以前アジアのマネージャーを務めていた時、香港のチームとは1時間時差が違うので、ランチの時間にミーティングを入れてしまっていたんです。香港の人たちはランチの時間を大事にしているので反感を買ったのですが、それを長いこと教えてもらえませんでした。みんなが教えてくれるようなマネージャーではなかった。そのことに気がついた時、自分は変わらなければいけないと強く感じました。
篠崎:つい分かった気になってしまいがちですが、実は拾えていない声というのが多くあるのだと思います。お話ありがとうございます。

グローバルに欠かせない「存在感」
篠崎:3つ目に、グローバルというテーマでお話をいただきます。グローバルで活躍する人材、マネージャーになるためにはどうしたら良いか。海外でビジネスを始めるには何から始めるべきか。まさにChiさんの実践されてきたことかと思います。
大塚:書籍『「存在感」はつくれる』でもお話しているのですが、グローバルで仕事をしていくにあたって、自分の「存在感」は必須です。自分から存在をアピールしていかなければいけません。例えば会議に出る時、下を向いていると、興味がないように思われてしまいます。まずは堂々と顔をあげて、「話を聞いている」とわかるように振る舞う。できれば質問を用意する。自分は会議に参加している一員なのだということをアピールすることが大事です。
篠崎:詳細はご著書に書かれていらっしゃいますが、「存在感」を作る第一歩は何だと思われますか。
大塚:自分を知ることですね。自分を知って、「こういう自分になりたい」という理想を知る。例えばマネージャーになりたい、役員を目指したいというのも良いと思います。「私にはできない」と思ってしまう人は、ファクトチェックを。誰かに「できない」と言われたわけではないはずです。なりたい自分が見つかったら、「どんなマネージャーがいたら嬉しいだろう?」と考えながら、存在感を作っていくと良いんじゃないかと思います。
篠崎:グローバルでの活躍は、まず「あなた」という人物を認識してもらうことからですね。

ライフステージの変化に直面した時、どうしたらいい?
篠崎:最後に、ライフステージの変化についてです。年齢を重ねると、気力・体力の低下に悩む人も増えていきます。変化との向き合い方についてぜひお話をお願いします。
大塚:とても大きなテーマですね。「自分に優しくいる」というのはすごく大事だと思います。実は、私は結構自分に甘いんですよ。絶対に外せない今日のようなセミナーでなければ、自分の調子が悪い日はミーティングもキャンセルします。自分のベストで臨めないなら、相手に失礼だと思うからです。またリスケでも良いような仕事を減らし、どうしても大事なものを残していくというのも大事だと思います。
ライフステージの変化というのは、女性だけではありません。男性も「転職をしたいけれど、子どもが小さいしお金もかかるし」と悩むなど、ライフステージの変化に直面する瞬間はあると思います。誰もがライフステージの変化を目の当たりにする中で、「こういうキャリアを描きたい」という気持ちを持ち続けることが大切だと思います。
今、全てを手に入れるのは不可能です。でもあと2年経ったら、10年経ったらできるかもしれない。その想いをどこまで持ち続けられるかが重要だと思います。
篠崎:みなさんから頂いた質問を読んでいると、年齢を気にしている人も多いと感じました。
大塚:日本は年齢を気にする人が多いですね。世代で一括りにされることも多いですが、自分の健康は自分しかチェックできません。自分のパフォーマンスが良くなるならば、体を鍛えたり、スポーツをしたりすることも大切です。私も色々なスポーツやトレーニングをしています。
篠崎:Chiさんが歯磨きしながらスクワットをするというお話が好きです(笑)。自分の心と体の変化を逃さず、ご自身に優しくすることが大事ですね。

大塚ちづるの「My Value」は?
篠崎:Chiさんの「My Value」についてもお聞かせください。実はニューヨークから別の場所に生活拠点を移されたそうですね。
大塚:数週間前に、イタリアに移住しました。以前から夫婦で「いつかヨーロッパに行きたいね」と話してはいたんです。陸続きなので様々な国に一気に行けて、色々な文化に触れられる。効率的で良いなと思い続けていました。そこで出会ったのが『DIE WITH ZERO』という本です。改めて80歳までにやりたいことを書き出してみると、思った以上に時間がないことに気がつきました。
また、今アメリカでは私が賛成できないことが多く起こっています。変えられるのは、自分のことだけ。恐怖がなくなるまで徹底的に情報収集をしてから、移住を決めました。信頼している人たちに話を聞いていきながらこれまでの人生を振り返ってみると、やり切るまではどんな壁にぶつかっても全力でやり切ることに「My Value」を置いてきたと感じます。
篠崎:イタリアは言語も異なる場所だと思います。外国人としてその土地に生きる上でも、「My Value」は大事でしょうか。
大塚:大事だと思います。私は「郷に入っては郷に従え」を大事にしています。文化を学ぶこと、言語を学ぶこと。まだイタリア語は勉強中なのですが、文化と密接した言語なので、勉強するのが楽しみです。
篠崎:探究心や好奇心、リスペクトを持つことも大切ですね。

自分の穴に吸い込まれないで
いよいよイベントも終盤に差し掛かり、最後に質疑応答の時間が設けられた。大塚さんの話に刺激を受けた参加者たちから、次々と手が挙がる。特にマネージャーとの付き合い方についての悩みには、参加者の頷きが深まる。
大塚:メンバーが見えている会社の情報と、マネージャーが見えている会社の情報は違うもの。相手の立場に立って話をするというのは大事ですし、様々な情報収集をした上で「こう思うのですが、どうお考えですか」と対話をしてみてはいかがでしょうか。
私がニューヨークで学んだのは、「マネージャーをマネジメントする」ということ。「Manage Your Manager」という言葉があります。烏滸がましい言い方ですが、マネージャーをどうマネジメントしていくかを考えることは、非常に良い学びになると思います。自分は部下を持つ時にこれはしたくないなということにも気がつけます。
篠崎:みなさんすごいメモを取ってますね(笑)。最後に、Chiさんから「自分の穴に吸い込まれないで」というメッセージをいただきたいと思います。
大塚:みなさん、自分のコンプレックスがあると思います。私のコンプレックスは、「職場で英語が第二外国語なのは自分だけ」ということでした。ビジネスでの英語はスピードも速いですし、なかなか会議で発言ができません。英語が分からないのか、内容が分からないのかも分からない。「きっと私は英語が分からなくて、昇進もできないんだ」とどんどん自分の「穴」に吸い込まれていきました。でもある時、意を決して「分からない」と言ったら周囲の人が「自分も分からない」と言うんです。その時、英語が第二外国語だからではなく、内容が分からなかったんだと気がつきました。そもそも私が英語は第二外国語だということを分かって採用されているわけですし、「君の英語は分からないよ」と言われたわけでもありません。自分で勝手に思い込んでしまっていただけでした。
「私なんか、こんなことができるはずない」。でもできるから、その場にいるんです。 金曜日の夜にわざわざ時間を取ってセミナーに訪れてくれたみなさんは、リーダーシップの強い方々だと思います。自分はもうリーダーだということに、気がついていただければと思います。


<フォトレポート>






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