Bloom talk



著書『「存在感」はつくれる』でも知られる大塚ちづるさん。女性推進、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)のトップランナーである大塚さんへのインタビューの後編をお届けする。
女性は「自分の特性に出会う」ことで変化していく

−大塚さんは組織開発だけでなく、働く女性自身の考え方にもアプローチされています。ジェンダーギャップ解消のためには、日本の女性も変化していかなければいけないのでしょうか。
大塚:女性のマインドセットの変化は絶対的に必要だと思っています。変われるのはいつの時も自分から!そして今の時代、終身雇用制度なども無い中、女性のサバイバル能力はみんなが身につけるべきです。私個人がそれに気づかされたのは、9.11アメリカ同時多発テロ事件後でした。夫が日系企業のニューヨーク支店で働いており、会社がニューヨークから撤退することになったため、一時的に職を失う事に。その時、なんとマンション購入手続きの真っ最中だったのです。殆どの男性が感じている「自分が稼いで家族を養っていく」という感覚はこんな大きなプレッシャーだったのかと初めて実感しました。夫と対等な立場であると思っていたけれど、どこかで社会のトリックにハマっていた、甘かったなという大きな反省と後悔がありました。日本でも平日の日中に女性は堂々と歩けるのに、男性は肩身が狭そうにしているのを見かけます。男性にも女性同様に男性というだけで想像以上に社会のプレッシャーがあります。ですから、女性も意識を変えないと社会は変わらないと感じます。また、私自身、女性がキャリアにおいてぶつかる壁にぶつかってこなかったので、多くの女性のリアルな声を聞いてみたいという思いもありました。
−実際に聞いてみていかがでしたか。
大塚:みなさん想像以上にやる気に満ちていました。一方で、会社には本音を言っていないのだなと感じました。また「自分にはできない」と控えめに思ってしまうマインドブロックを外すには、もちろん自分ですることもできますが、外してあげる人も必要です。自分の本来の特性・可能性を気づかせてもらえたら、凄く満たされた気持ちになりますよね。誰にでも自分の特性に出会う瞬間というのがあるんですけれど、そういう瞬間を引き出すお手伝いをするのが私の仕事の一つだと思っています。なぜできないと思ってしまうのか、できたらどんな気持ちになるか、1つずつ紐解いていく繊細な仕事ですが、それでみんなが元気になって変化していく姿を見ると、やりがいを感じます。
−自分の特性を信じられると、思っていることも伝えやすくなります。
大塚:企業が言いたいことを言えない雰囲気であるということもあると思いますが、もっと自分の主張を伝えられるようになると良いですよね。ニューヨークの女性たちはアウトプットが実にうまいのです。数年前、ある女性が「ずっと座っていると腰が痛くなるので立って仕事をします、何か問題はありますか?」と尋ねました。数日後にこの女性はキャビネットの上にPCをセットして働いていました。他にも、働けない理由は言わずして、週末は絶対に働けないけれど、その代わりに月曜日と木曜日なら残業をしても良い、とチームの人々に交渉した女性もいます。固定概念に捉われず、自分の意思を伝えて状況を変えていけると良いなと思います。
疲れすぎないよう「余暇」を大事に
−そうやってサバイバル能力が身についていくわけですね。
大塚:サバイバル能力が身につく一方で、自分を大切にする事も必要です。特性に気がつくと、同時にやりたい事や、やれることも多くなり、時間との葛藤が生まれ疲れてしまうこともあると感じた事もありました。ニューヨークはそもそも自らの個性・特性を活かしてパワフルに働く街なので、刺激され、影響されどんどんパワフルになって、時に疲れを感じることもあります。でも、よーく観察しているとニューヨークの人たちはサボり上手でもあるんですよ。「Recharge(リチャージ)」と言って休んだりして、人に理解されやすい気の利いたネーミングがとても上手な人たちです(笑)。
−日本人はサボるのも苦手なので、見習うべき点がたくさんありますね。大塚さんは休日、どのようにリフレッシュされていますか?
大塚:夫婦で一緒に「用事をしない」というのを徹底しています。アメリカやヨーロッパでは「余暇」を大事にする文化があります。私たちもサラリーマン時代は平日ほとんど一緒に過ごす時間がなかったので、週末はとにかく一緒に余暇を過ごそうと決めていました。今は2人とも独立していますので、平日のランチさえも一緒にとることが多いですね。掃除はアウトソース(外注)して自由時間を増やしています。自由な時間には読書したり、野菜を育てたり、夏には夫はヨットを楽しんだりしています。また、コロナで家にいた事が吉と出て、本格的な料理をするようになり、最近オーブン料理などにもハマっています。アメリカ人の友人達からリクエストが多いのは餃子です。手先が器用な日本人ならではの料理のようで、作る過程からビデオを撮ったりして観察しています!
−テニスにもハマっていらっしゃるのだとか。
大塚:体を動かすことが元から好きですが、テニスはここ数年で始めたのですが、すっかりハマってしまいました。ダブルスでチームワークも求められ、また競争心も満たされ、自分にとても向いているスポーツです(笑)。
私の所属するクラブはたまたまとても由緒あるクラブで、メンバーのほとんどが白人です。白人人口がおそらく90%以上の街に住んでいるので当たり前と言えばそのとおりです(笑)。アジア人がテニスクラブに入るのはハードルが高いなと思って、昔から興味はあったけれど躊躇していましたが、コロナ禍にテニスとゴルフは安全なスポーツだとされていたので、やっぱりテニスクラブに入ってみようと思いました。当初はなかなかグループに入れてもらえず、クラスやレッスンを主にとっていました。まあ、初心者ですからレッスンは必要でしたが(笑)!それでも、オープンな方に誘ってもらい、一緒にテニスをしています。今では3つのグループの数十人の仲間達と週に3回以上プレイして、試合にも出ます!私の1日は朝、6時ごろからコーチング、クライアントとのミーティング、またはセッションと仕事をして、朝の8時半ごろから90分テニスをしてスタートします。
−平日の朝にテニスをしていらっしゃるのですね!とても忙しいイメージがあったので、意外です。
大塚:時間は作るものですよ。私は『忙しい』とか『バリキャリ』みたいな言葉も好きじゃないんです。自分の好きな人生を生きるにはやはりバランスだと思うのです。やりたくないことは外注したりしてやらない、会いたくない人には無理に会わない。そうやって時間を使いたいところに使えるように常に心がけています。ゴールドマン・サックスでいかに多くの仕事をこなすかというところは鍛えられたように思います。そのおかげで今があると思います。感謝!
もう一度、世界に誇れる日本に

−日本ではまだ、クライアントから「女性の営業はつけないでほしい」という要望が来てしまうこともあるのが現状です。
大塚:私も女性たちからそういった事が今でもあると聞いて大変驚きました。一昔前にはニューヨークでも無かったわけではありません。「女性の営業はダメだ」と言われたと部下から報告を受けた上司が「それなら女性3人でもう一回行ってこい」と言っていたのを聞いたことがありました。その後ですか?もちろんクライアントから苦情の電話がかかってきましたが、上司は「女性しかいないんですよ」と、とぼけていましたね(笑)。そのヨーロッパから来た上司はこんなこともありました。女性社員に対してセクハラしたクライアントとは取引を中断し、競合他社にも電話をするといったことがありました。すごいなぁと思いましたが、彼はゲーム感覚でいかに自社の主張を通そうか、自分たちの影響力を試し、ここでもまた「勝負に出た」とか「勝つ!」という心があるのだと知りました。
−凄いエピソードですね。
大塚:日本では難しいかもしれないですが、どうして難しいかと考えていただきたいです。こういったお話をお伝えすることで、じゃあ自分がその立場ではどうしようかと考えるきっかけになると思うんです。皆さんに考えていただく機会を提供するのも私の役割かなと思っています。
小倉:日本では女性の社外取締役を増加させようという動きはあるものの、現場では反対や疑問の声が挙がるケースもあるようです。
大塚:5年後、10年後を見通していないからそういう発言になるのではないでしょうか?労働人口が減っていく中で、今後どうされていくのか、心配になります。既に気づいていて、行動に移している企業も多いのが事実です。「日本人は」とここで一般化することは適切では無いかもしれませんが、優秀なのに、古くからの固定概念に縛られているのはとても勿体無いと思います。
−どういった点が日本人は優れていると感じられますか?
大塚:責任感が強いと感じます。また完璧なものにしようとする想いや、粘り強さが凄いですね。手先が器用なのもDNAだと思いますよ。最近では海外でも折り紙は知れ渡ってはいますが、小さな子がきれいに角を揃えて折り紙をすると本当に驚かれますから。グローバル環境にいるとやはり日本人として、経済大国と呼ばれていた時代もあったのに、現在色々な面で遅れを取っている国になっているのは悔しいです。このままで本当に良いの?と思います。もう一度、多様な特性を組織に取り入れビジネスに長けている国だと次世代のみなさんに思ってもらいたいですよね。
女性推進担当が兼任できない理由とは

−大塚さんは「女性推進担当者は兼任ではできない」とよく仰っていると伺いました。
大塚:全てのことに共通すると思うのですが、やはり「一生懸命やれば変革は起きる」と信じています。でも兼任していると、「一生懸命」できなくなってしまうんです。女性推進が何年も社会問題として解決されないままなのに、片手間できるような問題ではありません。心から解決したいと思うのであれば、兼任では無理でしょう。例えばCBCさんはCareer Bloomに投資をして、今後のビジネスとして「フォーカスしてやっていく」という決意をされていますよね。とても良い事例です、なぜならそこまでやらなければ変わらないものだと思うからです。
−兼任だとどうしても後回しになってしまうことも多いと思います。
大塚:そうですね、例えば分かりやすい例として、経理と女性推進を兼任する場合、経理の仕事は月末の締めなど、デッドラインがありますよね。そうするとどうしてもデッドラインがある方を優先してしまう。それは誰でもそうだと思います。また、経費削減する必要に迫られた時に、ダイバーシティは非優先にされてしまう事も多々あります。それは会社が戦略的になぜダイバーシティが必要なのか、なぜ大事にすべきなのかを明確にし、注力していかなければならないと思われていない結果でもあります。ダイバーシティの課題はまだまだ山積みではありますが、変化の可能性は高いと思っています。なぜなら男性に「女性を虐げたい」という気持ちがあるわけではなく、誰でも気持ちよく働ける社会を求めているはずだからです。社会を変化させるには昔からの価値観のみにとらわれず、当事者意識を持ち、企業も組織もアップグレードしていく時代ではないでしょうか?
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