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「違っている方が面白い」フランスで見つけた、“自分は自分”のキャリアの築き方

「違っている方が面白い」フランスで見つけた、“自分は自分”のキャリアの築き方

小泉 由子さん
小泉 由子(こいずみ ゆうこ)さん
大学卒業後にフランスに渡り、スウェーデン発のファッションブランド「Acne Studios」でホールセール部門を担当。2018年に帰国、同ブランドや「LEMAIRE」など国内外ブランドのPR/Salesを担うEdstrom Officeに勤務。「Aesop」で約2年間マネージャー職を務めたのち、2025年より「Ergobaby(エルゴベビー)」にてカントリーマネージャーを務める。

大学卒業後、フランスへ渡り、「Acne Studios」で約8年間キャリアを積んだ小泉由子さん。帰国後も「LEMAIRE」など国内外ブランドのPR/Salesを担うEdstrom Officeや「Aesop」などグローバルブランドで経験を重ね、現在は「Ergobaby」のカントリーマネージャーを務めています。一斉に同じスーツを着て就職活動をする日本の風景に違和感を抱き、飛び込んだフランスで出会ったのは、人種も働き方も異なる一人ひとりが、その「違い」を認め合う文化でした。語学へのコンプレックス、出産・育児、キャリアチェンジ、マネージャーへの挑戦。さまざまな変化を経験しながら小泉さんが辿り着いたのは、誰かと比べるのではなく、「自分は自分」と考えること。フランスで育んだ価値観から、自分らしいキャリアと働き方をつくるヒントを伺いました。

「みんな同じ」に感じた違和感。自由の国フランスで探した、自分らしい働き方

−大学卒業後のキャリアについて教えてください。

フランスの映画・ファッション・カルチャーが好きで、何か携わる仕事ができたらと思い、フランスに留学しました。学生ビザでインターンシップができればと思ったのですが、2年ほど必死でフランス語を勉強してフリーランスの通訳の仕事を受けられるようになり、フランス人のパートナーとの結婚を機に「Acne Studios」に就職。約8年間、ホールセール部門を中心にキャリアを積みました。息子の出産を経て、2018年に帰国。「Acne Studios」のPRを担当していた会社に転職し、約4年間働きました。その後、「Aesop」を経験し、現在は「Ergobaby」のカントリーマネージャーを務めています。

−フランスに惹かれた理由は何でしたか。

幼少期からフランスの映画・ファッションには影響を受けてきました。元々はピアニストや芸術家になりたかったんです。大学生の時に友人とフランスに旅行し、フランスの自由で多様な文化に魅力を感じましたね。1人ひとりが自由に生きていて、人種はもちろん、働き方にも多様性があります。
私が新卒当時、日本はまだ企業に「終身雇用で勤める」という価値観が一般的で、一斉にみんなで同じスーツを着て就職活動をするというスタイルにも違和感がありました。そんな日本の就職スタイルに馴染めなかったこともあり、自由で多様な価値観が根付くフランスで、自分らしい働き方を見つけたいと思いました。

−「Acne Studios」でのホールセールの経験はいかがでしたか。

「Acne Studios」はファッションブランドの中でも芸術性と収益性の両立を重んじていて、ブランドをいかに多くの人に届けるかを重視していました。売上数字に関しても凄くクリアかつアグレッシブに追い求める会社だったんです。自分たちのブランドを貫くことと、売上を確立することは矛盾しないという考え方に非常に感銘を受けました。これが私のキャリアにおける原体験になっていると思います。

−日本に帰国するという大きなキャリア・生活の転換を迎えたきっかけは何でしたか。

息子が産まれたことで、日本に帰りたいという心境の変化がありました。また、キャリアにおいては英語・フランス語が母語ではないため、ある程度の限界はあるかなと感じていました。今まで培った経験を日本であればもっと活かしてステップアップできるのではないかと考え、総合的に判断しました。

−パートナーにはどのように相談されたのでしょうか。

フランスに永住するイメージがつかないので、日本に帰りたいと言ったところ、彼も「試してみても良いんじゃない」という反応でした。キャリアについてはそれぞれが自由にできて当たり前という考えなので、特にアドバイスや相談はなかったです。その辺りはもしかしたら日本のパートナーシップにおける関係性とは異なるかもしれません。

多様な価値観に触れたフランスでの日々。現地で出会った仲間たちとの交流も、自分らしい生き方を考えるきっかけに。

キャリアは理詰めで決めなくていい。「好き」と直感を信じて、次の場所へ

−数々のブランドでセールスとして「売上を作る」仕事に携わってきた小泉さん。様々な結果に結びついた秘訣は何だと思われますか。

もちろん戦略的にスキルが必要な部分もありますけれど、私が携わらせていただいたブランドはどれも自分が大好きなブランドだったので「私がこのブランドをもっと多くの人に売りたい」と思えたのは大きかったと思います。一緒に働くメンバーも大好きな人ばかりで、楽しく仕事をしてくることができました。

−好きなブランドだからこそ、入社してからギャップを感じることはなかったのでしょうか。

本当に、全くないんです!どのブランドも、製品も社員も素晴らしい。そのまま外部の方にお見せできるくらいのクリーンさがあって、リスペクトを持ってブランドに関わることができました。

−好きなブランドに関わる中で、転職のタイミングはどのように考え、決断されたのでしょうか。

私は新たな市場を開拓していったり、売上をどんどん作っていくことが好きなので、そういったミッションをやり切れたなと自分で実感が持てたタイミングで、次に行くフェーズなのかなと感じました。またキャリアにおいては人との出会いや、機会をいただくタイミングも重視しています。キャリアビジョンを理詰めで考えるより、その時に感じた「次に動くタイミングかも」という感覚を大事に決断しています。

−仕事における自分の強みはどのように見つけられましたか。

最初は様々なコンプレックスがありました。例えばフランスに行った当初はフランス語を集中的に勉強したので、「Acne Studios」に入社した時は英語に苦手意識があったんです。会社の公用語は英語だったので、ビジネスレベルの会話ができる自信がありませんでした。越えなければいけない壁は他にも色々とあったんですけれど、語学力とプレゼンテーションスキル、この2つがあればどこでもやっていけると感じられるようになりました。そう思ってからは意識的にこの2つを磨くようにしてきました。とにかく実践、回数を重ねながら慣れていき、自信をつけていきました。

−プレゼンテーションスキルは苦手な人も多いと思います。実践で培われたとのことですが、何かコツはありますか。

まずはプレゼンテーションの目的を整理することだと思います。誰が聞いているのか、どういう目的で聞いていらっしゃるのか、私は何を伝える必要があるのかをクリアにする。あとはなるべくリラックスできるような環境を作って伝えるのが大切です。もし慣れてない時だったら、インタラクティブに、例えば聞き手に質問してみるとか、自分だけが喋るのではないシチュエーションを作るのも良いんじゃないかと思います。棒読みの長いプレゼンテーションって、聞いている方も苦痛じゃないですか。それよりは論点をできるだけシンプルにした方が、結果的に相手に伝わるものだと思います。

−これまでさまざまな試練を乗り越えてこられたと思いますが、今振り返ってみて、失敗から学びを得た経験はありますか?

凄く覚えているのは、「Acne Studios」の時にクライアントのオーダーを2度登録してしまったこと。かなり大きなクライアントだったのですが、会社が「じゃあその分売っていこう」とポジティブに変換してくれました。そういった失敗も乗り越えて今があると思います。
また初めは自分1人で全部できるようにならなきゃいけないという思いが強かったんですけれど、キャリアを重ねるごとに、自分が苦手なことは、それが得意な人に任せることも大事だと思えるようになりました。そういうことを意識できるようになってから、大きな失敗がなくなったと思います。

自由に働くからこそ、成果は明確に。違いを尊重するマネジメント

−ご自身の中でキャリアのターニングポイントだったと感じる時期はありますか。

「Aesop」はターニングポイントだったと思います。それまではどちらかと言うと自分が本当に好きな、ニッチなブランドが多かったんですけれど、「Aesop」はニッチでありながらも商業的にも成功しているブランドで、事業としての規模も大きかったです。組織も大きく、製品数も多く展開していました。かつ、社員を大切にするカルチャーがありとても働きやすく、ダイナミックな仕事ができてワクワクしました。

−小泉さんは好きなブランドかつ組織風土もフィットする会社を選んでいらっしゃいますよね。どのように合う会社を見極めていますか。

その会社で働く知り合いがいればその人の雰囲気や、面接でお会いした時のフィーリングは大切にしています。また産休・育休制度の内容や、どのくらい事例があるかなどもしっかり確かめるべきだと思います。リモートに対する考え方や通勤時間、フレックス制度も大切です。私は満員電車が本当に苦手で、満員電車に乗って毎朝仕事に行くと確実にパフォーマンスが落ちます。特に年齢を重ねてくると、いかに健康的に働けるかが大事になってきます。だから働く環境が自分に合っているかは常に意識していて、基本的にはリモートワーク、もしくはリモートと出社を組み合わせたハイブリッドな働き方を選んでいます。こういった部分は軽視されがちですけれど、働く上でとても大切な要素なんじゃないかと思います。

−フランスと日本で、キャリアの価値観の違いを感じる部分はありますか。

フランスの女性はとても野心的で、バイタリティがあると感じます。「何も諦めない」というスタイルには私も良い影響を受けていると思います。出産・育児を経験していてもキャリアを諦めるという選択肢は全くなかったです。フランスは子育てに関する支援制度が凄く整っていますし、子どもを預ける場所が必ず確保されているので、専業主婦という概念がないんです。
また労働者の権利意識が強く、自分の権利をすぐに主張するというのも特徴的だと思います。街中でデモなんかも多いですし、会社の中でも年齢を問わず、言いたいことは言う文化です。人種が多様な分、互いの違いを認め合い、リスペクトし合う環境だったと思います。

−日本企業では空気を読んでなかなか主張しにくい雰囲気を感じている人も多くいると思います。

私は外資で働いてきているので日本でもあまりそういった体験をすることはないのですが、自分の考えを伝えることは、ネガティブなことじゃないと考えています。「受け入れられないだろう」と諦める前に、遠慮しすぎず言ってみても良いんじゃないかなと思います。
また日本の企業にも、役職や年齢に捉われずにオープンにコミュニケーションできる風土が求められているように感じます。そうでなければ、優秀な若い世代がどんどん独立する道を選ぶようになってしまうのではないでしょうか。

−チームをマネジメントする際に心がけていることはありますか。

まずはメンバーそれぞれの良いところを言葉でちゃんと伝えること。誰にでも必ず良いところはあるので、それを見つけるようにしています。世代が違えば価値観も違うので、それを最大限に尊重することが重要だと思います。もちろん会社の方針もあると思いますが、例えば出社頻度や働く環境に関する要望など、私が決められる部分では最大限に希望を聞きます。もちろん、結果は出してもらう前提です。

−リモートなど「働きやすさ」ばかりが求められ、社員が成果にコミットしない状況に陥らないために工夫されていることは?

ターゲットをクリアにすることですね。パフォーマンスレビューなどの場で必ず、「あなたにはこの期間でこれを達成することを求めています」ということをかなりクリアに話し合います。もちろん一方的ではなく、「私はあなたにこれを期待していますが、あなたはどう思いますか?」とディスカッションをした上で決めていきます。最初にこれらを明確に共通認識として持っておけば、マイクロマネジメントは必要ないと思います。

身体を整え、美に触れることで生まれるサステナブルな働き方

仕事も子育ても、自分らしいバランスを大切に。家族と過ごす穏やかな時間。

−仕事と子育てのバランスの取り方についてもお聞かせください。

私は仕事をしていた方が子育てとのバランスが取りやすいと感じたため、3ヶ月で仕事復帰を選びました。フランスでは預け先も充実しており、スムーズに仕事に復帰することができました。息子が2歳になってから日本に帰国しましたが、保育園で本当に長時間見ていただきました。

−ご自身の中で子育てとのバランスに悩む時期はなかったのでしょうか。

体力的に今まで出来ていたことができなくなってきたと感じた時に、会社に相談したことがあります。そこからは自分の身体のことにも気を遣って、ヨガやピラティスを本格的にやるようになりました。2年ほど前から始めて、身体のコンディションを整えることがこんなにもマインドを整えてくれるのだと気が付きました。身体の調子が良いと、マインドも軽くなるんですよね。それはもしかしたら今、働く上で一番大切にしていることかもしれません。心身ともに健康でいることが、サステナブルな働き方につながると思います。

−今後のキャリアで挑戦してみたいことはありますか。

日本の文化を海外に広めていくことに関心があります。高校生の頃から茶道をやっていたり、日本の古い建築も大好きなんです。日本の文化を未来に残していきたいという思いが強くて、そういうことに携われたら良いですね。

−小泉さんが持つ美意識は、どういうところで培われたと思いますか?

両親が美術館に行ったり音楽に触れたりする機会を作ってきてくれたのも大きいと思いますし、仕事でも美しいものに触れる機会が多かったのだと思います。会社で出会う人も、そういったものにアンテナを張っている人が多いんです。食に関しても面白い視点を持っていたり、良いお店を知っている人が多かったり。そういう環境にずっといるので、とても刺激を受けました。

−毎日忙しく仕事をしていると、そういう美意識を磨く時間がないと感じる人も多いと思います。

今はAIで仕事を効率化することもできるので、もし時間を捻出することができるならば、感性を磨く時間を作る方が生産性は上がると思っています。Aesopにいた時はチームビルディングの一環として、ランチにおしゃれなレストランに行く機会を意識的に設けていました。

−自分にとって最適な働き方をデザインするということも大切ですね。

そうですね。私は長時間集中できるタイプではなく、短時間でガッと仕上げるタイプなんです。そのため、決められた時間ずっとオフィスにいるよりも、自分のペースで集中して働ける環境の方が合っています。これまでマネージャーにも恵まれていて、働く時間や場所を細かく管理するのではなく、成果を見て任せてもらえる環境で働くことができました。

−そういった自分らしいやり方に気がついたのはどんなタイミングでしたか。

マネージャー業務をするようになって、求められるものが増えた分、効率的に働く必要があったことで気がついた部分も大きいと思います。チームの一員として働いていた頃より、自分の働き方を棚卸しし、自律的に動く機会が増えました。

ネガティブな時も無理にテンションを上げない。リラックスして仕事に向き合う

−小泉さんはとても仕事を楽しんでいらっしゃると思いますが、「今日はしんどい」「会社に行きたくない」という日はどのように乗り越えてきましたか?

私は人に会うと元気になるタイプなので、「行きたくない」と思っても、行ってしまえば楽しめるんです。幸いなことにチームのメンバーがすごく良かったので、そこに助けられたことは多かったです。フレックスタイムの時にはカフェに行ってから会社に行くなど、気分転換をするようにしました。ただ、誰でも気が乗らない時があるのは自然なことだと思っているので、あまり無理にテンションを上げすぎなくて良いと思っています。

−リラックスして仕事に向き合っていらっしゃるのですね。

リラックスしないと、やっぱり力が出せないと思っているんですよ。何でもそうだと思うんですけれど、緊張して、体に力が入っていると伸びるものも伸びません。マネージャーとしても、メンバーがリラックスできる環境づくりができるよう心がけています。

−小泉さんは数々の名だたるブランドでキャリアを重ねていらっしゃって、周囲にも素敵な方が多くいらっしゃったと思います。周囲と自分を比較してしまう環境にもなり得る中、どのように自分らしさを見つけ、キャリアを確立されていきましたか。

おっしゃる通り、特に「Acne Studios」の頃は、優秀で知的な方々が多くいました。また、英語が苦手というコンプレックスを感じたこともあったのですが、やはりフランスは個性を認める国で、違っている方が面白いという価値観があるので、そこに助けられることは多かったです。自分にできることを磨いていけば良いと自然と思えるようになりました。人と違うことを気にするより、その違いをどう活かすかを考える。その方が、自分らしく長く働いていける気がしています。

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